Nonogatari

たいせつな「舞姫」

2023.05.19

 

『舞姫』とは、今からなんと16年前、宝塚歌劇団花組で上演された森鴎外原作の『舞姫』という作品のことです。

当時私は研2( 研究科2年)か研3?くらいで、年齢で言えば20歳(“すみれコード”はもう解禁して平気?)。本気で右も左もわかっていない頃に、初めてヒロインという役どころを経験させていただいた公演だったかと思います。

「思い出は美化される」とよく言いますが、本当にその通りで、私にとっては触れたらなくなってしまうくらい美しい思い出として心の中にありました。
演出の植田景子先生から再演が決まりました!と直接ご連絡をいただいた時、なにかが音を立ててゴトゴトと動くように身体の中に響いて、その日からなんだかずっとソワソワしていました。

主演を務められた愛音羽麗さんという先輩が、当時のメンバーで観劇会をしようと企画をしてくださったおかげで、瞬く間にメンバーが集まり、大所帯で舞台を客席から観劇できることに。私の中のソワソワは、ますますヒートアップ。
いったい何ヶ月ソワソワしたのでしょうか?(笑)

久しぶりに阪急宝塚駅に降り立ち、新しい宝塚ホテルで集合。

観劇前にみんなでランチをしました。
私は在団中、途中で花組から宙組に組替えとなったので、13年以上?ぶりにお会いした方も!それでも、みなさんにお会いした途端、当時の花組での日々がブワッと蘇るのは、本当にあの日々が濃厚で濃密で充実した日々だったのだなあと改めて思いました。

一人ずつ近況報告をしたりしながらランチを楽しみました。
そこである先輩から「あの時のすみかのことでめっちゃ覚えてることがあるの!」と。こういう時はたいていギョッとするお話ばかりなのですが、今回は想像を超えてギョッとしました。だって、私自身がそのことを全く思い出せない・・・(笑)

歌劇団の数ある教室の中で一番小さな自主練習をするような部屋があるのですが、その先輩は歌の練習をしようと教室に入り、真っ暗の部屋の電気をつけて一通り練習が終わったころ、なんとグランドピアノの下から、ぬぼーっとした顔で野々が出て来たのだそうです。めちゃめちゃビックリしたと。
・・・・・・・こんなこと信じられますか??私は信じられない(笑)
その時私は演出の先生に沢山のご指導をいただいた後だったらしく、そのことも思い出せない私っていったい・・・。どうかしてます。

そうしたら次に稽古中のエピソードまで出て来まして。こちらも壮絶です。
宝塚の作品となれば決まってラブシーンがあるのですが、当時私はちんぷんかんぷんの状態で相手役の愛音さんも景子先生も頭を抱えていたところ、ある日急にお芝居がとってもよくなったので、一体なにがあったの?と尋ねられた時、なんと私は「昨日『チャーリーとチョコレート工場』のDVDを観ました。」と真顔で答えたそうです。
・・・・・なんでやねん!と、その場でお二人がずっこけたというお話。

今から振り返ると、引くほど呆れます(笑)
ほんとに大丈夫?舞台に立てる?と16年前の自分が心配になりました。

でも、その時の必死さや、何もわかっていないながらにがむしゃらに頑張ろうとしていた姿が、極限状態のエリスという役柄と重なって、なんとか舞台で生きていられたのだなと振り返っています。そんな無茶なやり方はプロとは言えないのですが、その時の私はそうするしか方法がわからなかった。

自分の命を削るような日々の思い出を、頑丈な箱にしまっていたのに、その蓋を開けるような気持ちになったのが、数ヶ月間のソワソワの原因だったのかもしれません。

みなさんとランチをしていると、その時どんなふうに作品に向き合われていたか、あらためて知ることができました。私は私なりの向き合い方があって、その人それぞれの真剣な向き合い方があって。それがひとつの志に向かって正面からぶつかり合うから、観る人の心が動くのかもしれないなと。そんなことを改めて考えた時間でした。

宝塚ホテルの大階段で記念撮影。

(こんなに大事な写真なのに、センターに入り込んでしまっているなんて、かなりやらかしてます・・・。うしろからわちゃわちゃ先輩方に押し出していただいて気がつけば中央に出て来てしまい、左隣の景子先生から「みわっちがセンターじゃなくていいの?」と仰るなか(ほんとうに仰る通りでございます)、右隣のみわっちさん(愛音さん)は「わたしゃここでいいねん!」と、花組特製ピンクシャツをご披露。
あたふたしている間に撮影が終わってしまった。。
本当にとんでもない後輩なのに、みなさまに温かく接していただき心から感謝です。)


そして、雨の中みんなでゾロゾロと宝塚バウホールへ移動。


宝塚大劇場に隣接するバウホールで観劇するのは本当に久しぶりで、色々な思い出がこみ上げて来たり、そしてみんなで並んだお席に腰をおろして、なんだか嬉しくて興奮してきてしまったのですが、今回の『舞姫』を創り上げて来られた演者のみなさんを静かに落ち着いて感じたくて、地球の裏側から舞台を拝見するくらいのスーッとした気持ちにスイッチを切り替えました。

再演物となると、初演の言い回しや動きがすべて頭に入った状態から創り上げることになり、初演とは別の難しさがあると思うのですが、エリスを演じた美羽愛さんは、私とは全然まったくもって別の、ご自身のオリジナルの役作りをしていて、なんだかほっと安心しました。

最後にカーテンコールがあったのですが、舞台上のみなさんが、どれだけ大切にこの作品に向き合って来られたかが滲み出て来て、うっかり最後の最後に泣きそうになりましたが、堪えました(笑)

大切な作品を通して、宝塚の繋がりを感じる機会に恵まれ、本当にありがたく幸せな一日でした。

演出の植田景子先生と、愛音羽麗さんと。

 

 

 

切磋琢磨しながら当時沢山支えてくれた大切な同期と。

 

これからも宝塚歌劇が多くのみなさまに愛される劇団でありますように願いを込めて。

『舞姫』観劇日記でした。

 

すみ花